2015.12.02 Wed

Written by EDGE編集部

コラム

関東フットサル三国志/第8章「その4:日本とスペインの根本的な違いとは? 運営面に見るスペインフットサル事情」

Fリーグができるまで、日本フットサルの頂点は間違いなく「関東」だった。その関東を軸に競技フットサルの歴史を振り返っていく当連載。昔からのファンはもちろん、フットサル観戦ビギナーや、Fリーグ以降にファンになった人には「最高の教科書」になるはずだ。
(文・木暮知彦/関東フットサルリーグ広報委員)

 スペインの話題が多く出たところで、スペインのフットサル事情について、ここは関東三国志なので、関東リーグと比較しながら紹介しておこう。

 まずはリーグの運営面から。(なお、比較は当時、すなわち2005年頃の比較である) 

 関東リーグと比較するとなると、スペインでは2部リーグが適当である。なぜなら、スペインも2部とはいえ、3つの地域に分かれているし、完全なプロは少なく学生や働きながら1部を目指す選手が多く、日本の関東リーグとFリーグの関係と似ているからである。チーム数も関東リーグは1部、2部合計で20チーム、スペインは1つの地域リーグで16チームだからほぼ似ている。観客数も1試合あたり400人から500人といったところである。

 しかしながら、根本的に違うところがある。それは、スペインは1部(トップリーグ)と2部とで入れ替え戦があることである。日本でいえば、関東リーグで勝ち、例えば地域チャンピオンズリーグで優勝したらFリーグに昇格できる仕組みとなっている。むろん、これは日本でも目指す方向性であるが、そのためには、もっと関東リーグ内で地域密着性を高める必要性がある。なぜなら、日本でも昇格した先のFリーグは地域密着、ホーム開催可能な施設の確保を義務付けているからである。この違いは、チーム運営、選手のモチベーションなど根本的な部分で大きな違いとなって現れている。

 次なる違いは、完全にホーム&アウェイ方式が確立していて、かつ年間試合数が1チームあたり30試合もあることである。これは、スペインの国土事情、歴史・文化的事情が理由にある。

 スペインは、中小の地方都市が極めて多く、もともとサッカー文化が発達しているからチーム数が多くなるのは容易に想像できる。そして、交通網が地方では発達していないため、日本の関東のように、そう簡単にセントラル方式の大会を開くことができない。したがって、チーム数を増やして試合数を確保しないとホームチームが地元に登場する機会を増やすことができないのである。

 スペインに限らず、ブラジルでもそうだが、地方では日本のように娯楽がいくつもあるわけではない。サッカー、フットサルが極めて重要な娯楽である以上、ホーム開催がわずかということはあり得ない。かくて、2部の場合でいうとシーズンは8ヶ月、16チームで年間30試合をこなすというわけである。30試合あれば、うちホームが半分であるから、月に約2度、ホームゲームを開催することができる。ちなみに、スペインでは地元新聞があり、大人の大会はもちろんのこと、子供のフットサル大会も新聞に掲載されるほどの浸透ぶりで、そこには文化がある。

 また、ホーム&アウェイ方式は、会場の雰囲気、選手のモチベーションなどリーグの情緒面、ソフト面でも関東リーグとは大きな違いを生み出す。それは、アウェイの試合に乗り込んだ場合、完全に敵地に乗り込む状況になることだ。したがって、移動の疲れの影響もあるが、アウェイで勝つことは至難の業となり、逆にホームでぶざまな負けを喫しようものなら、これはこれで大変なプレッシャーとなる。実際、ホームとアウェイでは得点力には大きな差があり、少し古いデータになるが2005年の2部Aでは総得点785点のうちホームが434点、アウェイが351得点で、100点以上の開きがある。結果的には、ホーム&アウェイ方式が会場を盛り上げると同時に、選手に強い精神力、収入面のプロという意味ばかりではないプロ意識を育てる土壌となっている。

 日本の場合は、なかなかそこまでのホーム&アウェイ意識は醸成されにくい。とりわけ関東となると、大都市東京周辺という事情、日本人の同質気質などからなおさらである。それでも、各チームの努力で府中アスレティックの府中市、フウガドールすみだの墨田区、カフリンガ東久留米の東久留米市、柏トーア’82の柏市など、次第に地域密着性を高めつつある。

 そうは言っても、ハード面、物理的環境面でなかなか難しい問題がある。まず、関東は人口が集中しているため、体育館にはさまざまなスポーツ、イベントで会場確保の競争がある。フットサルの認知度が上がってきたとはいえ、確実に月2回をフットサルで確保することは難しい。しかも、借りるにしてもいろいろな規制がある。スペインではもともと夜が遅いこともあって、試合は夜行われることが多い。終了時間は9時を超えることも予想しなくてはならない。スペインの場合は、試合を見た後、夕食のケースも多いから、夜だろうが、子供、母親も見に来る。また、ビールも売っているし、スポンサーの看板もやたら多い。日本だったら、まっさきに環境、教育面でやり玉に挙げられるだろう。

 次に、やはり、運営資金の問題である。地元での登場回数を増やそうと思えば、試合数は増え、かつホーム&アウェイで分散開催となると、審判費用、会場費用、移動費、すべてにおいてコストがかさむことは間違いない。むろん、スペイン2部の場合も運営資金の問題は当然あるが、これをパトロンが解決してくれる可能性が高く、日本はまだその可能性が低い。

 パトロンとは、地方の金持ちで、多くは不動産会社、自動車販売会社、家具会社など地元密着型企業のオーナーで、サッカー、フットサル好きである。本当はサッカーチームのオーナーになりたいが、お金がかかり過ぎるのでフットサルにしたというパトロンも多いらしい。

 また、地元企業が応援するから、当然、市の行政も応援する。そして、市長もサッカー、フットサル好きなのである。日本にも、地方で名をなす地元企業は多いと思われるが、オーナーがサッカー、フットサル好きとなると、歴史が浅い日本としては、その確率はぐっと下がると思われる。

 例えば、2005年のインターコンチネンタルカップ開催地のプエルトジャーノは、人口が5万5千人、マドリッドとセビリアを結ぶ新幹線の真ん中近くにあり停車駅もあるから、岐阜の羽島市くらいの都市がクラブ世界選手権を開催したイメージである。パトロンと市の応援があったればこそ開催できたのである。

 関東リーグのみならず地域リーグからFリーグにエントリーしたチームはこれらの課題を乗り越えて今がある。しかし、地域リーグ全体がFリーグとの入れ替え戦方式、かつホーム&アウェイの仕組みに今すぐ移行することは、現段階では難しい。日本の国土事情、文化的事情から考えて、地域リーグは、今のセントラル方式を主体とした仕組みとし、その中からFリーグ昇格チームをさまざまな角度から選考する方式が合理的といえるだろう。

 ただし、将来に備えてセントラル方式の大会形式を維持しつつ、ホームゲームの色彩をもっと強める工夫は必要だ。たとえば、チーム数を増やし、ホームおよびホーム施設を明確にして、積極的に地元施設開催を増やすなど、リーグ全体として疑似ホーム&アウェイ方式を作り出すことが考えられる。無論、地元との協力関係を結ぶこともしなくてはならない。実際、関東リーグは、次第にホームゲーム意識が芽生えつつある。 

 さて、お宝写真は、木暮が在籍していたナザレノ(スペイン2部リーグでセルビアがホームタウン)の体育館内の写真にしよう。スペインではよく見られるバールが体育館内にもあるといった感じで、ここでビールを飲みながらフットサルも観戦するのである。完全に生活の一部に溶け込んでいる感がある。

※この連載は毎週水曜日・金曜日の2回更新予定です。

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