2019.03.21 Thu
Written by EDGE編集部
▶Fリーグ
【伝説の証言者】10年後の名古屋のキャプテン。「あの大会から、自分を含めた物語が始まった」(星龍太)
奇跡のチームから物語が始まった
「(タイトルを)取り返す気持ちが強くて気を緩められなかったので。もちろん今シーズンも緩めていないですが、それ以上のものだった。『(勝って)当然』と言っては失礼ですけど、それくらい自信があった」
2019年3月、全日本選手権決勝で優勝を決めた瞬間、龍太は穏やかな喜びの表情を見せていた。
「大会前に(ペドロ・コスタ)監督と酒井(ラファエル良男)がやめることを知って、優勝して彼らを送り出したいという気持ちが強かったので、(リーグカップとFリーグ、全日本選手権の)3冠を達成した喜びよりもその2人と一緒に勝って終われたという喜びが大きかったですね」
戦友であり家族と迎えた最後の戦いに勝ったこと。それが彼の胸の中のすべてだった。
10年前と10年後の感情表現の違い。それは端的に言えば、背負っているものが違うからということ。同じように家族と一緒に日本一になる喜びを経験しても、湧き出る感情は、その時々で異なるものだ。もし、龍太にとって今年が初めての日本一だったらまた違ったのだろう。10年分の蓄積が、その言動に現れている。
「10年前の経験が今につながっているという感覚はあります。あの大会に出られたのは須賀(雄大)さんが使ってくれたからですけど、シーズン途中に入ってから関東リーグでも出ていませんでした。そんな状況でメンバー入りしたんです。だから、試合には出ましたけど、みんなに支えられて『優勝させてもらった』という感じ。でも競技フットサルを始めて最初に優勝を経験したらハマっちゃうじゃないですか。この道でいこう、もっと上を目指そうと。その後、半分くらいのメンバーがFリーグに移籍して、自分がやってやろうという立場になりました。『フットサルをしっかりやろう』と思わせてもらった大会でした」
優勝「させてもらった」10年前と優勝「させた」10年後。それこそが龍太の成長の証だ。
「名古屋で7シーズンプレーしてきましたが、やめていった選手も含めて、プレー以外にも本当に多くのことを教わりました。体で、プレーで、言葉で教わったことが今に生きています」
彼にとっての10年前は、「日本一も初めてだったし、若かったし、それこそ大学ノリ」の喜びがあった。だから龍太に“伝説の証言”をしてもらうのは、実は的を得ていないかもしれない。「思い返すといろんなことがありました。それこそ何時間でも飲みながら話せるようなストーリーがありますからね(笑)。でも選手権というものが、自分にとってすごく大きな大会だったことは間違いないです」と、掘り起こせば語り明せるエピソードはあるだろう。
しかし、「史上最高の下克上がどうして起きたのか」ではなく、「史上最高の下克上が起きたから」こそ今の龍太があるのだと考える方が、フウガの物語を見出せるように感じる。
「今のFリーグを引っ張る選手がたくさん出るような、それはもう『奇跡』ですよね。あんなメンバーが地域で集まって同じチームでやっていたなんて。そこから自分を含めた物語が始まりました」
龍太は計らずも「奇跡」という言葉を使った。それくらい彼ら自身にとっても二度とないような出来事だったのだろう。だから今でも語り継がれるような伝説になったのだ。
しかし、龍太はこうも言う。
「Fリーグができて長い時間が経って差がついたところはあると思います。でもまたフウガのような新しいチームが現れて引っ張っていって、そうやって日本のフットサルが発展していったら嬉しいですね」
一つの出会いが一人の人生を変え、フットサルの構図さえも変えてしまった。フウガが10年前に成し遂げたことは、確実に今につながっている明らかな価値だ。しかしもし、もう一度、彼らのようにギラギラしたチームが現れることがあるならば、それこそがフウガの真の価値を証明することになるかもしれない。
Interview & Directed, Key Visual by Yoshinobu HONDA
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【Contents】【伝説の証言者】FUGA MEGUROはなぜ日本一になれたのか? 7人が明かす「史上最高の下克上」の真実に迫る
Witness 1 フウガ・イズムの生みの親と伝道師。「奇跡のチームはこうして生まれた」(須賀雄大監督&金川武司)
Witness 2 決勝の出場時間はゼロ秒。「あの試合がなければFリーグを目指していなかったかもしれない」(深津孝祐)
Witness 3 スタンドで涙を流した男。「出られない悔しさがなかったのはあれが最初で最後だった」(渡邉知晃)
Witness 4 勝ち越し弾、決勝弾を奪った男。「ヒューマンパワーにあふれたフウガが果たした役割」(荒牧太郎)
Witness 5 狂犬と呼ばれいたあの頃。「頭の中の理性と野生が共存していた」(星翔太)
Witness 6 奇跡のチームのその後のストーリー。「ただの通過点」(須賀雄大監督)と「達成感」(金川武司)
Witness 7 10年後の名古屋のキャプテン。「あの大会から、自分を含めた物語が始まった」(星龍太)
Afterword あとがきにかえて。「10年前と10年後の彼らが、“今”を生きる僕たちに教えてくれたもの」
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