2016.02.01 Mon
Written by EDGE編集部
▶インタビュー
「すべてのトレーニングは試合につながっている」。シュライカー大阪・木暮賢一郎監督が考える「フットサル指導者論」

シュライカー大阪を2年連続プレーオフ出場に導いた木暮賢一郎。明確なビジョンに基づいたトレーニング、戦術的な引き出しの多さなど、フットサル界で屈指の指導者として高い評価を受ける。「すべてのトレーニングは試合につながっている」「無駄なセッションは一つもない」という木暮監督が明かす、フットサル指導者にとって大事な考え方とは——。
(文・北健一郎/futsalEDGE編集長)
トレーニングをデザインする
——木暮監督のトレーニングに対する考え方を教えて下さい。
まず、全てのトレーニングはチームのコンセプトに沿ったものでなくてはいけないと思っています。少なくとも大阪は、大阪のやり方に合っているトレーニングしかしていません。
ボールを回したいのか、素早く攻めたいのか。プレッシャーをかけるのか、引いて守るのか。そのチームが目指すプレーモデルと、トレーニングはイコールではなければいけません。
トレーニングの時期によっても変わります。プレシーズン、シーズンの始め、真ん中、終わり。それによってやるべきことも変わっていきます。
——木暮監督は「トレーニングをデザインする」という表現をしますが、これはどういうことなのでしょうか。
要は、家を建てるのと一緒だと思います。家を建てるときに、設計図を作らずに、いきなり建て始める人はいないでしょう。こういうものを作りたいというイメージがあったとして、そのための設計図を作る。フットサルのチーム作りもそれと同じです。
次の試合に勝つことがゴールだとするならば、自分たちの長所と短所、相手の長所と短所、予想される試合展開、注意すべきポイントなどを分析した上で、トレーニングの内容を組み立てなければいけません。
仮に名古屋オーシャンズとの試合が週末にあるなら、名古屋はこういう戦いをしてくる、こういうところをチームとして狙おうといった具合に。それをトレーニングに落とし込んでいきます。
もちろん時間には限りがあります。月曜日から金曜日まで5セッション(5回の練習)できるとしたら、そこでどこにプライオリティを置くのか、フィジカルのピークをどこに持っていくのか。そういうところを一つずつ“デザイン”するのが監督の仕事だと僕は思っています。
——1年間のプランニングを教えて下さい。
プレシーズンは自分たちの理想のフットサル、オフェンスもディフェンスも、そこに向けてアプローチする。まずは自分たちのやるべきことのレベルを上げるために、多くの時間を割きます。ただ、その中でも、あまり絞り過ぎるのではなく、ある程度いろいろなことを網羅していきます。
僕自身は、自分たちのフットサルがこれだから、これだけを1年間やろうということはしません。オフェンスならボールを回す、ディフェンスなら激しくプレッシャーをかける。そうしたコンセプトはぶれてはいけませんが、試合の状況や相手との力関係でそれが出来ない場合もあります。そのときに引き出しを作っておくことは重要です。前からプレッシャーをかけるからといって、引いて守った練習をしないかと言えば、そうではない。
——シーズン中はどのようにトレーニングを組み立てるのですか。
試合が終わったら、次の試合の話しかしません。1週間のトレーニングは次の試合に勝つためのトレーニングをやる。それを5日なら5日でどうデザインするかというのが僕の考え方です。
——例えば、次の次の試合が名古屋だとします。でも、2週先の話はしない。
はい。ただ、僕の頭の中にはあります。シーズンをやっていく中で、他のチームのデータがいろいろ入ってくるじゃないですか。Fリーグの傾向に関しては先まで読んでいます。例えば、ここからの3試合の相手は連続で引いて、マンツーマンで来そうだと。そういうときは重点的に、そこで起こりそうなことにフォーカスしてきます。
昨シーズンの大阪はゴール数が非常に多かったので、引いて守るチームが多くなってきた。そこでカウンターを受けて負けることがあったときは、そこにフォーカスするようにしていました。
——対戦相手のスカウティングはどれぐらい行っているのでしょうか。
スカウティングは非常に大事です。ファーストDFが縦を切るチームなのか、中を切るチームなのか。それによって、自分たちの一つ目のアクションを変える必要があります。
「どんな相手に対しても自分たちのフットサルをやればいい」という考え方はあまり好きじゃないです。フットサルは相手ありきのスポーツなので。もちろん、目指すべきフットサルはあるんです。だけど、ゲームをやる中で多くの引き出しがあるべきじゃないかと思っています。
——木暮監督が考える、理想のトレーニングとは。
理想は、試合が始まる時点で、選手に全ての情報が伝わっていて、実戦で起こりえることに関しては全てトレーニングで準備し終わっている状態を作ること。試合中に指導者が何かをしなければいけないというのは、あまり良い状況とは言えません。
もちろん、いつもそうなるわけではありませんが、そうするために1週間をどう使うか。試合が終わったら、そのゲームで良かったところ、良くなかったところをフィードバックしながら、次の試合につなげていく。
——木暮監督のトレーニングに無駄なセッションは一つもない、と。
そうなるように、やっています。よく、大阪は戦い方が変わるチームだと言われますが、チームのコンセプトは変わっていません。アルトゥールのフィットネスが上がってきたとか、小曽戸(允哉)が復帰してきたとか、そうしたチーム事情によっても戦い方は変えていきます。
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フットサル監督の1日の過ごし方