2017.08.01 Tue

Written by EDGE編集部

Fリーグ

なぜ北原亘の解説はマニアから初心者まで楽しめるのか? 新たなフットサルファンを生み出すための“共感型解説術”。

「伝える」ことと「伝わる」ことは違う

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──視聴者に伝わるように話す「他者理解」が重要という話がありましたが、あえてコアな話をすることもありますよね。それはどんな狙いがありますか?

北原 コアな層とライトな層の両方がいるなかで、どの視聴者層に伝えるのかは、自分のなかで明確に持っているようにしています。例えば、試合がめちゃくちゃ面白かったら、あえてライトな層に刺すようなことをしなくてもいいと思っています。映画のクライマックスのように、どんでん返しが常に起こっているような試合は、ピッチの事象に興味を持ってくれる人が多いですから、今のプレーはこういうことですねと、注釈をつけてあげるだけでいいんです。逆に、試合が停滞していたら、まずは自分のなかで、ピッチで起きている事象にどれくらいの人が興味を持っているかなという仮説を立てて、ライト層に向けて話をしています。

──あまり面白くないと感じる試合になってしまったときに話せるネタがないといけない。北原さんの解説を聞いていると、どんな試合展開でも楽しめるように感じます。

北原 まだまだ勉強不足ですが、自分なりに考えながらやっています。おこがましい言い方になってしまうかもしれないですが、僕は選手だったこともありますから、ピッチの事象を切り取って説明するのは難しいことではありません。「今のはパラレラです」、「ジャゴナウです」というのは簡単に説明できます。でも、ただそうやって伝えるだけでは、視聴者は「すごい」と思うかもしれないですが、共感はしないと思うんです。そういうときは、解説者と視聴者が上下の関係になってしまっています。だから僕は、視聴者がそのプレーを自分ごととして共感してもらえるように、視聴者といかに平行な関係になれるかということが大事だと思っています。

──自分が上にならないようにしている、と。

北原 「伝える」ことと「伝わる」ことは違うんです。「伝える」作業は、一方的にこちらのメッセージを発信することで、それが相手に届いて、その人が腑に落ちたときに初めて「伝わる」になります。これは解説者としての悩みで、「伝わる」作業をするためには、話が長くなってしまうのですが、フットサルはスピード感があって、すぐに次の展開になるので、あまり長く話してもいけないということです。そこはいつも反省しています。

──ここまで解説を担当されてきたなかで、自分なりに手応えを感じていますか?

北原 試行錯誤しながらやってきて、様々な手法があることを知ったという意味では、手応えを感じています。でもそれはAbemaTVの環境に助けられている部分もあって、試合が停滞したときに、これまでは自分が持っている情報、ピッチの事象、実況とのやり取りという3つの選択肢でカバーしてきたところを、視聴者のコメントを使ってやり取りできるという、4つ目の選択肢があるんです。

──コメントは結構、見ているんですか?

北原 実は、それほど見ないようにしています。でも、折を見ながら可能であれば拾うようにしています。そこは試合展開に左右される部分で、試合が魅力的であれば、そちらを優先的に伝えていますね。

──北原さんはよく、ゴール前の場面で「うわー」と興奮したり、プレーに対してもリアクションをしています。

北原 そこは、他者理解の一つでもあります。正直なところ、日本代表や世界と戦ってきたレベルで見ると、当たり前のように感じるプレーだったりしても、視聴者の目線に立ったときにどう感じるかを考えています。須賀(雄大)監督には、「テンションを1段階上げてるよね」と言われるのですが、確かに、自分のなかで意図的にテンションを高めている部分があると思います。

──テンションの上げ下げは難しいですか(笑)?

北原 先ほど話した、自分のコメント、ピッチの事象、実況とのやり取りという3つを同時に考えるのは、解説者として本当に難しいと感じているところです。常に冷静に、何が最適なのか、頭をフル回転させないといけません。僕自身、感情に左右されると自分のコメントができなくなるので、あまり好きじゃないんです。実は解説中は、かなり無表情だと思いますよ(笑)。

──そうなんですね(笑)。でもそこは、プレースタイルとも共通しているように感じます。選手時代も、冷静に守備をしながらときにはゴール前に顔を出したり、常に戦況を見極めたプレーをしていましたよね。

北原 現役時代は、全く怒っていなくても、チームを引き締めるために意図的に相手を挑発したり、思い切りクリアしたり、あまりやりたくはないですけど、チームのためにやっていたこともあります。解説をする上でも、どういうキャラクターがいいのかは考えるようにしています。

──「パワープレー」や「5ファウル」など、常に新しい視聴者を意識した説明もしていますよね。

北原 セットプレーのようなパターンプレーを含めて、フットサルはすごく専門性の高い競技なので、そこはきちんと説明するべきだと思っています。例えば、残り5分1点差で負けているチームがパワープレーをしていたら、まずは1点取ることを考えると思うので、「今はパスを回して相手の陣形を確かめて、そのなかでチャンスをうかがっている」とか、「横パスを増やしているのは、相手を引き出すため」とか。パワープレー中のシュートでも、「積極的に打つのもいいけど、それだとチームのリズムが生まれないし、パワープレー返しを食らってしまう」とか。視聴者には、「どうしてパワープレーをやっているの?」、「ポジションはどうやって決めているの?」、「なんで打たないの?」といった疑問があると思うので、そこに答えてあげることが他者理解なのかなと。

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