2017.08.01 Tue

Written by EDGE編集部

Fリーグ

なぜ北原亘の解説はマニアから初心者まで楽しめるのか? 新たなフットサルファンを生み出すための“共感型解説術”。

写真:本田好伸

今シーズンから始まった AbemaTVによるFリーグの生配信で、「分かりやすい」「面白い」と大人気になっているのが、元日本代表・北原亘による解説だ。選手の経験を生かした専門的な内容から、監督や選手への取材で得たリアルな情報、個人のキャラクターが浮かび上がる小ネタまで、硬軟自在な内容でマニアから初心者まで楽しませている。どうやって北原亘は今の解説スタイルにたどり着いたのか--。
(取材・文 北健一郎/本田好伸)

コアとライトをつなげる“中間層”をつくっていきたい

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──北原さんは解説の際にどのようなことを心掛けていますか?

北原 僕が大きなテーマとして考えているのは「共感」です。AbemaTVの視聴者は、35歳以下の男性と女性が中心なのですが、この顧客層は、スマホを片手にザッピングしながら、興味がある動画を数秒見て、その先も見続けるかどうかを判断します。そういう人たちがFリーグの配信に興味を持ってもらえるようにしないと、フットサルの間口は広がりません。

Fリーグには今、コアなファンとライトなファンがいますが、その中間層があまりいないように思います。ですから、コアな層に向けたものというよりかは、ライトな層を広げたり、コアとライトをつなげる中間層をつくっていくことを目指しています。そのために、フットサルの魅力を伝えるのはもちろんですが、それ以上に共感を得られるような伝え方を意識しています。

──例えばどのような伝え方ですか?

北原 これは一つの例ですが、府中アスレティックFCの完山(徹一)選手って、ピッチではすごいオーラを放っていますし、ちょっと怖そうというか、取っ付きづらい雰囲気がありますよね(笑)? でも彼は、プライベートではすごくファッションが好きで、意外なこだわりを持っているんです。それに帽子も、前髪を必ず少し出してかぶるんです。

そういう意外性やこだわりの部分に共感してくださる方も多いと思います。それに、そうやって私生活からこだわっているということと、プレーでもこだわっているということをつなげて伝えていきます。選手のパーソナリティーも伝え、競技だけではない私生活や趣味などの話から共感を持ってもらうのが一番いいんじゃないかと思っています。

──まずは、AbemaTVの視聴者層を意識している部分が大きいんですね。

北原 そこは、発信するメディアに応じて伝え方を変えないといけないと思っています。例えばJ SPORTSのユーザーは、料金を払って視聴契約を結んで見ているので、そういう方には、よりコアな部分、フットサルの本質的な魅力や戦術などを伝えるのがベストだと思います。一方でAbemaTVは、誰でも手軽に、気軽に楽しめるコンテンツとして成立しているものなので、そういう方を意識しないといけません。大切なのは、「他者理解」をしっかりしていくということだと思っています。

──初めてFリーグを見る人を意識しすぎることで、既存のフットサルファンが満足できないかもしれないという懸念もあります。でも北原さんの解説は、そうしたコアな層とライトな層の両方を意識したバランスが素晴らしいなと感じています。

北原 それはすごくありがたい評価です。そう言っていただけるのはきっと、常に自分の目的を考えているからかもしれません。僕は究極的には、フットサルを通して、いろいろな人に幸せや勇気・元気を与えたいと思っています。そこから逆算すると、絶対的に伝えたいのは、フットサルという競技の魅力です。その意味では、超えてはいけない一線というのが、非常に難しいところです。

──超えてはいけない一線?

北原 フットサルの魅力ではなく、チームや個人の魅力に寄りすぎることですね。とは言え、その一線は、人それぞれ捉え方が異なるものです。だからこそ僕は、そういうバランス感覚を意識するために、仮説と検証を常に繰り返しています。どこまでなら伝えていいのか。そういうラインを自分なりに設定して、ギリギリのところを攻めるイメージです。ギリギリじゃないと面白くないですし、安パイではダメだと思っています。

──例えば、戦術的な部分もどこまで伝えるべきか、と。

北原 それに関しては、事前取材をさせてもらい、いろいろな情報が入ってくるので、どこまで伝えていいのかを事前に決めてから解説に臨んでいます。チーム戦術のコアな部分に踏み込んでしまうと、それを他のチームに伝えることにもなるので、情報の取り扱いには気をつけないといけません。

──どのように事前取材しているのですか?

北原 担当する試合の前に、各チームの監督や選手から極力直接、話を聞くようにしています。

──そうやって常に情報をアップデートしているからこそ、北原さんの選手時代の経験則だけではないことを伝えられるんですね。

北原 情報を単純にアップデートすること自体は、話を聞けばいいだけなので、難しいことではありません。ただし、自分の中で仮説を立てて、答えをイメージしながら相手に話を聞くのと、単に事象を聞くのとでは、大きく違ってくると思っています。

例えば、自分の考えと相手の考えにギャップがあったときに、どうしてそうなのかを考えるんです。そこが、解説者として一番重要なことではないかと思います。そこで生まれた誤差をできる限り埋めていく作業が、正確にそのチームの魅力や戦術を伝えることにつながると思っています。

──元選手という経験は少なからず解説に生きていますか?

北原 生きていると思います。でも、様々な試合を担当させてもらって相当数の試合を見ていますが、あくまでも僕は指導者ではありません。指導のことは、プロフェッショナルな方々から教えてもらうのが手っ取り早いですね。

──例えば戦術などのコアな情報を自分なりに咀嚼して、どのように伝えようとしていますか? 基本的に、北原さんの知識レベルは視聴者よりも高いので、そのまま伝えるとギャップが生まれてしまいます。

北原 先ほども言いましたが、解説者として一番大切にしているのは「他者理解」です。視聴者に、「自分の話が伝わるように話す」ということが重要だと思っています。限られた時間で、いろいろな選択肢のなかから、自分が伝えたいことを抽出する作業が必要です。チームや選手の面白い考え方など、伝えたい内容は、解説ノートに記しているので、それをタイミングを見ながら織り交ぜるようにしています。

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