2017.06.19 Mon

Written by EDGE編集部

Fリーグ

湘南のルーキー・小門勇太が流した涙の理由。クラブを支え続けた“おじいちゃん”に捧げた地域の勝利。

“名もなき逸材”を掘り起こしてきた湘南

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 地元・小田原市出身の小門が小学生時代に所属した酒匂サッカースポーツ少年団に、指導がてら足を運んでいたのが、後に小田原サッカー協会副会長なども務めた柏木氏だった。「父親とも交流があって、昔から親子でよくしてもらっていた。本当に、おじいちゃんみたいな存在だった」。

 小田原エリアのフットボール関係者にとって柏木氏は、いわゆる重鎮。でも小門にとっては、可愛がってくれるおじいちゃん。「Fリーグへの挑戦もすごく喜んでくれた。周囲からも、柏木さんが一番喜んでくれていると聞いていたし、とにかくいろんな思いがあった」。本当は、その姿を小田原アリーナのピッチで見せたかった。でもホームデビュー戦のわずか3日前に、父親からの電話で、柏木氏の訃報を聞いた。

 その夢が叶わないと知り、「ホーム開幕戦で絶対にゴールを決めてやる」と誓った。「不思議と決められる気がした。だから驚きはなくて、点を決めて当たり前みたいな感覚だった」。小門は26分、右サイドの浦上浩生からのパスを、ゴール前に滑り込みながらドンピシャで合わせ、4-1とリードを広げるゴールを奪った。

 クラブの思い、選手の思いを試合に込めた湘南。小門のゴールを眺めながら、湘南とはつくづく稀有なチームだと感じた。一般的に、開幕から間もないこの時期は、実力のある選手が移籍先で結果を残すというように、実力者が活躍する場合が多い。ただ湘南はいつも、“名もなき逸材”を掘り起こしてきた。育成組織のロンドリーナや神奈川県内のクラブを始め、潜在能力を秘めた選手を登用して、新鮮な印象を与えてきた。

 近年では、植松晃都、安藤良平、鍛代元気、浦上浩生、大德政博、岡村康平、上村充哉、林田フェリペ良孝……挙げ始めたらキリがないほど、若く生きの良い選手をピッチに送り出し、彼らもまた、その力を存分に発揮してきた。ただし、経験不足や連係面のミスも多く、チームとしての最大値をつくれないまま、勝ち点を逃してきた。奥村敬人監督がしきりに「これまでの弱い湘南ではなく、強い湘南を見せる。今シーズンは必ずプレーオフに行く」と決意を語るが、「弱い湘南」は、彼らに定着した負のイメージだった。

 今年もまた、湘南はフットサルファンに新鮮な驚きを与えた。横澤直樹前監督の選手復帰だけではなく、2014年9月に、神奈川県青少年保護育成条例違反で神奈川県警に逮捕され、一度は選手契約を解除した内村俊太が、第三者委員会の保護指導プログラムのもと更生し、3年ぶりにカムバック。この2選手はホーム開幕戦でシーズン初ゴールを飾るなど、ファン、サポーターの大きな歓喜を誘った。

 そしてもう一人、インパクトのあるデビューを飾ったのが小門だった。彼の経歴もまた、人とは少し異なる。

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