2017.02.08 Wed

Written by EDGE編集部

Fリーグ

亡き父に捧げた復活ゴール。町田の“天才レフティ”篠崎隆樹がすみだ戦で流した涙の意味。

写真:本田好伸

“天才レフティ”と呼ばれる男に訪れた試練。ペスカドーラ町田で9シーズン目を迎える篠崎隆樹は、今季、自身のキャリアの中で最も難しい時期を過ごしていた。出場時間は限られ、与えられた少ないチャンスをモノにできない。しかし、シーズンも大詰めとなったフウガドールすみだ戦で先制点を決めて、勝利の立役者になった。試合後、篠崎の目には光るものがあった。そこには2つの特別な思いがあった。
(文・福田悠)

 亡き父の誕生日に捧げたゴール

 試合後、ミックスゾーンに現れた篠崎隆樹の目は真っ赤に充血していた。

 4位ペスカドーラ町田が3位フウガドールすみだにアウェイで4-0と完勝を収めた第31節。4ゴールの口火を切ったのが篠崎だった。前半9分、左サイドを縦に突破した森岡薫からのラストパスにファーで合わせ、約2カ月ぶりのゴールを上げた。チームに勢いをもたらす貴重な先制点だった。

「薫は縦に運んでも中に切り込んでも対角が見える選手なので、彼が相手を背負った時点で(ラストパスが)来ると信じて走りました。うまくDFの股を通してきてくれたので、狙い通りでしたね」

 篠崎にとっては2つの意味で特別なゴールだった。

 一つは、篠崎の置かれた立場がある。今シーズン、森岡薫、室田祐希など日本代表アタッカーを補強したチームにあって、篠崎は出場時間を減らしていた。ベンチ入りの12人にも入れず、メンバー外になることもあった。

 2008年に加入後、多少の浮き沈みはあったが、常に主力選手として戦ってきた篠崎にとって、自身のキャリアの中で最も難しい時期だった。それゆえに、このゴールは自らの価値を示すという意味で大きなものだった。

「試合に出られない時期が続いていたので、起用してもらった以上はとにかく結果を残したいと思っていました。左利きなのでセットプレーやパワープレーでは使ってもらえていたんですけど、そういうところで結果を残せなかったことを不甲斐なく思っていたので。流れの中で1点取れたのは大きかったです」

16298980_1245398455556866_2483465046282604542_n(写真提供:篠崎隆樹)

 もう一つは、大切な人の誕生日をゴールで祝うことができたということだ。

 「2日前が、亡くなった父親の誕生日だったんです」

 篠崎の父親はラガーマンだった。「小さい頃は、グラウンドによく試合を見に行っていました」。かっこよくて、スポーツもうまい父親は、篠崎にとって自慢の存在だった。

 小学2年生のとき、地元のチームでサッカーを始めるきっかけを与えてくれたのも、父親だった。自分の子供がスポーツを始めるのは、うれしかったに違いない。息子が上達していくのを想像し、試合を見に行くことを楽しみにしていたはずだ。

 だが、その願いは叶わなかった。サッカーを始めてからわずか1週間後、篠崎の父親は交通事故にあって、帰らぬ人となってしまったのだ。篠崎にとって、あまりにも突然の別れだった。

「僕がプレーしている姿を一度も見ぬままお別れしました」

 父が亡くなった後も、篠崎はボールを蹴り続けた。毎日、毎日、真っ暗になるまで、もう止めなさいと言われるまで、ひたすらボールを蹴り続けた。そんな積み重ねが“天才レフティ”と呼ばれる男の、魔法のようなボールタッチをつくりあげた。

「父の遺してくれた唯一の宝物」

 篠崎はボールを蹴ることをそんな風に表現する。ボールを蹴ってきたから、フットサルの世界でトップレベルに上り詰めて、たくさんの喜びを味わうことができた。ボールを通じて、たくさんの仲間にも恵まれた。

 篠崎にとってフットサルは「決して辞めてはいけない。諦めてはいけないもの」だ。選手である以上、試合に出られないのは辛い。たくさんの葛藤もある。ただ、「父の遺してくれた唯一の宝物」を諦めることはできなかった。

「だから今でも続けていられるんです」

 篠崎はそう言って笑顔を見せた。2月22日には33歳になる。すでにベテランと呼ばれる年齢に差し掛かり、いつまでプレーできるかはわからない。

「改めて、今もプレーし続けられていることに感謝して、選手としての日々を大事に過ごしていきたい」

 苦しみ抜いた今シーズン。1年間で最も重要なこのシーズン最終盤に来て、遂に本来の篠崎が戻ってきた。スランプを完全に脱したと言い切るにはまだ早いかもしれない。ただ、風向きは確実に変わり始めている。

「チームへの貢献度をどれだけ上げられるかというのを、ここ最近は常に考えて過ごしてきました。まだまだ自分自身への物足りなさはありますけど、室田、(横江)怜、(日根野谷)建とか、チームを引っ張ってきた選手が怪我で離脱している中で、自分を含め、今季ここまでくすぶっていた選手がここで結果を残さないといけないと思っています。少し吹っ切れたところもあるので、攻撃も守備も、とにかくチームのために少しでも貢献できるように、やれるだけのことをやっていくつもりです」

 長かったトンネルの出口はもうすぐそこだ。帰ってきた天才レフティが、町田を高みへと導く。

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