2016.08.22 Mon

Written by EDGE編集部

コラム

“投げ合い”から”蹴り合い”へーーポートボール化するバーモントカップ。このままで子どもたちは成長できるのか?

写真:本田好伸

小学生年代のフットサル日本一を決める大会「バーモントカップ 第26回全日本少年フットサル大会」が8月12日から14日の3日間にわたって開催された。大会を通して、これまで数多くのトップ選手を輩出してきた大会の意義を再認識する一方で、フィジカルやパワーに頼った単調な戦いが増えていることへの大きな疑問も残っている。およそフットサルの試合を見ている感覚にはならず、元Fリーガーが「ポートボール化している」と揶揄するほど、競技性に変化が起きている。ではいったい、どのような戦いが繰り広げられているのか。そしてその背景には、何があるのか。子どもの成長機会が失われていることを危惧する筆者が、バーモントカップの現状を考察する。
(文・本田好伸)

競技フットサルから掛け離れていく大会

 サッカーにおけるフットサルの有用性が語られるようになって久しいが、果たして実際の育成現場において、どれくらいの指導者がそのことを実証しているのだろうか。「バーモントカップ 全日本少年フットサル大会」という、小学生年代のフットサル日本一を決める大会を見てきて、そんな疑問を抱き続けている。少なくともこの大会に出てくるサッカー専門のクラブに対して、フットサルの重要性が深く浸透しているとは思えない。大会の取材を重ねるごとに、そのことを強く感じている。

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 小学生年代の選手にとってこの大会は、全日本少年サッカー大会と同じような大舞台である。過去には、第1回大会の小野伸二(当時:沼津FC/現:コンサドーレ札幌)、第7回大会の興梠慎三(当時:宮崎東SSS/現:浦和レッズ)、第10回大会の森本貴幸(当時:ベルディジュニア/現:川崎フロンターレ)、第12回大会の齋藤学(当時:横浜F・マリノスプライマリー/現:横浜F・マリノス)、第13回大会の原口元気(当時:江南南サッカー少年団/現:ヘルタ・ベルリン[ドイツ])、第14回大会の柴崎岳(当時:野辺地SSS/現:鹿島アントラーズ)、第16回大会の中島翔哉(当時:ヴェルディジュニア/現:FC東京)など、現在もトップカテゴリーで戦う多くの選手が出場してきている。さらに、第1回大会で優勝した木暮賢一郎(当時:読売サッカークラブユースS/現:シュライカー大阪監督)など、フットサル日本代表として活躍した選手もいる。そうした意味でも、フットボール界にとって大きな価値のある大会であることは間違いない。

 ただ一方で、年々、大会の価値が薄れてきていると感じる。日本一を懸けた勝負という点では、小学生年代で「勝つ」ことを明確に意識できるが、同時に考えるべき育成という点では、大会の意義を考えて出場しているチームが減っているように思えてならない。「優勝を目指して戦う」という大義名分ばかりが先行し、手段が目的化するような戦いをすることに、どれほどの意味があるのだろうか。8月14日に行われた第26回大会の決勝がまさにそんなことを痛感する試合だった。

 1次ラウンドから圧倒的な得点力で勝ち上がった初出場のセンアーノ神戸Jr(兵庫県)は順調に勝利を重ね、決勝でもエスピーダ旭川(北海道①)に11-6で大勝。全7試合で実に69ゴールをマークして大会の歴史にその名を刻んだ。ただその試合の中身を紐解くと、内容はあまりにも競技フットサルから掛け離れたものだった。

 自陣のキックインから、すぐ横でパスを受けた選手がゴール前にロングボールを蹴り込み、待ち構える選手が頭でコースを変えてゴールを奪う。もしくは、自陣の選手が直接ゴール前に蹴り込み、相手GKのミスや混戦からのゴールを狙う。センアーノ神戸はこのシンプルな形から何度も決定機を作り、そして11点のうち6点はこのパターンからゴールを挙げた。

 もちろん、選択肢の一つとしてロングボールは有効な手段だ。ルールに反しているわけでもなく、相手との力関係などを踏まえて優位性を見出し、そのプレーに傾倒するのは当然の策でもある。そこで勝敗が決してしまうのであれば、相手が対応できなかったというだけのことであり、対応されたのであれば、そこからまた別の選択肢を選べばいいだけ——。勝負の世界における原則はそういうものかもしれない。

 ただ、選手の成長を考えるのであれば、ある一つのプレーに固執してしまうことで、選手が成長する機会が大きく失われてしまう可能性もある。実際にこのパターンから得点を重ねた選手たちは試合後、キックの精度とヘディングの高さを理由に、「監督から言われてやっていた」と話した。そこに相手の状況を踏まえた判断や選択肢はなく、単純に技術を披露しているだけのようだった。

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指導者がフットサルを知らなすぎる

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